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Jeff Wallの影響 [photographs]

         

課題で作った作品です。今回はこれを作るきっかけになったアーティスト、Jeff Wallについての紹介です。

コンセプチュアルアートなんて難しいし、現代アートとか意味わかんない!と思う方、同感です!けど、彼の作品はおもしろい!最初はぱっと見だけで楽しめて、その後に作品のメッセージに気づくとすっかりはまります。現代美術が苦手な人にこそおすすめしたいアーティストです。

Jeff Wallは1946年カナダのバンクーバー生まれ、80~90年代のモダンアートに大きな影響を与えたアーティストです。緻密な写真合成技術を駆使し、巨大なライトボックスに写真を透過光した作品を展示しています。

 

         

A Sudden Gust of Wind (1993)

この写真を見て、ピンとこられた方もいるんじゃないでしょうか?この写真、北斎「駿河江尻」のイメージから、100枚以上の写真を合成して作られた作品です。あんまり自然なので合成というのが驚き!おじさんたちの動きがコミカルで笑いを誘いますね。

このときの授業課題が、「Hijacked Image」というもので、既存のイメージ(絵画、彫刻、広告、なんでもあり)を拝借して、おもしろい作品を作るというテーマでした。ひらたく言えば、元ネタを知ってるから笑える作品をつくれってことです(ひらたくしすぎ?)そういうわけでリサーチに薦められたのが、Jeff Wallの展覧会。彼は美術史に造詣が深いことで知られ、マネフォーリー・ベルジュールのバーや、ドラクロワサルダナパルスの死を元にした作品なども作っています。彼の作品はどんな古典絵画を元にしても、現代的なアプローチで切り込んでいるので、古典作品がより身近にかんじられます。

さらにJeff Wallの作品は既存のイメージの作り変えだけにとどまりません。一見おしゃれな写真といった風にみせて、実は社会的な貧困、差別に対する批判をこめた作品をつくっています。

         

Mimic(1982)

ものまね、というタイトルの作品。これ、どういうことだかわかるでしょうか?右側の男性が手で目をつりあげている…これ、アジア人の外見に対する、日常的な差別の瞬間を切り取ったものなんですね。映画のワンシーンのような構図で、最初はふつーに見てたのですが、途中でああ!って気づきました。Jeff Wallの写真にはこういう仕掛けが隠されています。                      

        

Milk (1984)

爆発するミルク、これはこの男性の社会への怒りを表しているそうです。「依然、社会的経験の中心として苦痛や財産の没収は存在する。」 Jeff Wallの言葉です。(つたない訳ですみません…)ただ、この作品は構図、背景のレンガ、男性の影と柱の影、全体の色のバランスまで、とても計算されていると思います。シンプルに写真として見るだけでも、思わず足を止めてしまう吸引力があると思いました。

Jeff Wallの写真は現代に生きる人に身近なテーマなので、とても入りやすい。写真1枚1枚にストーリーを感じさせるので、大きな展覧会でしたが最後まで飽きることなく見れました。

日本では写真を美術として捉えない風潮からか、Jeff Wallはそれほど紹介されてこなかったそうです。彼の作品作りの背景にあるコンセプチュアリズムというのがなんだかとっつきにくいというのも、ひとつの理由かもしれません。

あたしはアーティストには3タイプいると思っているのですが、ひたすら強く自分の世界観を発信する人、観客と適度な距離を保って考える余地を与える人、最後は内向的に自分のインナースペースを掘り下げていく人です。Jeff Wallは2つめのタイプだと思います。作品に多くは語らせず、常に観客に考えさせて最後の判断は観客にゆだねていますね「芸術作品についての最後の判断を下すのは見る者なのだ」とはMarcel Duchampの言葉ですが、コンセプチュアルアートの本質って、それまでの宗教画などの「観客に見せる」アートから、「観客と共に考える」アートへの移行に意味があるのだと思います。ただ笑えるものから、社会的な問題に対する批判、皮肉まで、アートを通して考えるというメッセージ。そういう意味では、Jeff Wallの作品は、万人に受け入れやすい形態をとって考える場を与えている点で成功しているのではないでしょうか。

ちなみにあたしの作品ですが、Tim HailandのUntitledという、都会のビル群を上空から撮った写真にBELIEVEの文字を合成した写真をハイジャックしたものです。課題のアイデアが思いつかず、TATE MODERNに行って「あーもう、ここの庭に落ち葉でBILIEVEって書いちゃえ!」(眠かったのでなげやりだったんです…汗)てことで、文字をちまちま作り写真撮影。そしたらホームレスのおじさんがBILIEVEを背景に静かに佇んでいたのです。おじさんにお願いして、写真をとらせてもらった、偶然できた作品です。Jeff Wall展を見た後で作ったことで知らず知らずのうちに影響されていたらしく、クラスメイトに「これJeff Wallの写真?」と聞かれてびっくりしました。Jeff Wallに間違えられて恐縮でしたが、うれしかったです。

Jeff Wall展はTATE MODERNで1月8日まで、もうすぐ終わってしまいます…。最後にもう一度見てこようと思っています。

SardanapalusさんがJeff Wall展について詳しく書いていらっしゃったので、トラックバックさせていただきました。内容が重複している部分があり大変申し訳ないのですが、Jeff Wallに興味を持たれた方は、ぜひこちらのブログもご覧になってください。

 

 

 


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Sardanapalus

はじめまして!TBとリンクありがとうございました。Wallは真っ白な気持ちで見に行ったらとても気に入った写真家です。もう展示が終わっちゃうなんて残念ですよね~。

>「これJeff Wallの写真?」
色彩感覚とかバランスがそれっぽいですね!BELIEVEとホームレスのおじさんの表情がとても印象的です。このblanc27さんの写真にnice!
by Sardanapalus (2006-01-07 08:34) 

sknys

ビックリしました。
知的レヴェルが一挙に3段階逆スライド方式でUPした感じです
(「バカ回文」ばっかり作ってられないなと反省しました)。
blanc27さんの写真も素敵です。
写真は「合成」でも、落葉(BELIEVE)とホームレスの男性の組合せは「偶然」というのが素晴しい。

写真展で印象に残っているのはMan Ray、Hans Bellmer、Mapplethorpe、Bernard Faucon、Cindy Shermanぐらいですが、
これからも色々紹介して下さい。
by sknys (2006-01-07 14:26) 

itokaz

こんにちは。
写真って「組み合わせの足し算」のように見えて
実は引き算じゃないかと、私はずっと思っていたので
あからさまな組み合わせ写真に最初、戸惑いました。
だけど「あざとさ」があまり感じられないのはなぜだろう、
そう思いながら日記を読ませていただきました。
なるほど。こういうのも「アリ」ですね。ニヤリとしました。

これからも楽しみにしています。
by itokaz (2006-01-07 15:25) 

blanc27

コメントありがとうございます*
>Sardanapalusさん
nice!ありがとうございます。あたしも展覧会に行くまでは知らなかったので、衝撃が大きかったです。写真ってドキュメンタリーの要素が強いと思ってたので、合成だらけの写真があんなにきれいだとは、目からうろこです!

>sknys さん
授業の課題で調べてるので難しいことも書いてますが、本人たじたじです(汗)
MapplethorpeはPatti Smithつながりで調べたことがありますが、なんかきれいな写真をとるひとだなーと思ってたら、急に変態っぽい写真がでてきたり、さすがPatttiの一の親友だと変に感心(?)しました(笑)

>drole さん
「過去の画家たちがしてきた絵画の模倣を、写真が写真家としてしたい、ドキュメンタリーの枠にとらわれない仕事をしたい」と、ウォールさんはおっしゃってますね。今はデジタル処理の進歩もすごいし、お家でも気軽に写真がつくれちゃうし、写真でなんでもやってみていいんだ~って、展覧会見て思いました^^
by blanc27 (2006-01-07 23:45) 

macchi

はじめまして。

仕事柄、デザイナーとの二人三脚で二次元を三次元化する仕事で
主にクレイモデルを製作してるんですが、アートと工業製品としてのデザインの狭間で右往左往している自分に良い刺激にもなり勉強になります。
by macchi (2006-01-21 10:14) 

blanc27

はじめまして、nice!ありがとうございます。
あたしはまだ学生ですが、グラフィックデザイナーになりたいと思っています。同じく「アートと工業製品としてのデザインの狭間で右往左往」している学生です。
学校柄、コンセプトをつきつめる授業が多いのですが、どんなに立派なコンセプトを考えてみても、物を買う人にとっては、「これいい感じ」ってだけですからね(笑)バランスをとるのって、けっこう大事だと思っています。
Jeff Wallみたいに、アートとデザインを行き来するアーティストは、すごく刺激になりました。
by blanc27 (2006-01-21 21:58) 

TaekoLovesParis

blancさん、はじめまして。 
冒頭の写真、ホームレスの人が殉教者のように見える静かないい作品ですね。
現代アートは、わからないものも多いけれど、アイディアのおもしろいものや努力が感じられるものなど、楽しくて好きです。 Jeff Wall を知らなかったので興味をもって読みました。
授業課題の与えられ方、ダイナミックだけど、ちゃんとヒントもあっていいな!と思いました。
☆ロンドン発のアート情報、期待しています☆
by TaekoLovesParis (2006-01-24 16:44) 

blanc27

課題はあいまいなテーマが多いので、いつも美術館からひらめきをもらいます。できるだけ早く更新できるようにがんばります!
by blanc27 (2006-01-25 21:12) 

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